公文淳子展
ご挨拶
何故、今、花なのか……
湿度70%気温28℃、熱帯雨林の森をさ迷い、この世のすべての事象が湿気で流され、歪み、溶けだす日々。
そんなモノトーンの世界で、赤い絵具を刷かれたハイビスカスが天を仰ぐ。
その花心はマニキュアを塗ったヤモリの吸盤、艶やかな粘液質のそれは、何を捕えようというのか……!
ドックン、ドックン、血の流れる音がする…。
心臓の鼓動が聞こえてきそうな、生き者としての植物たち……。
カドミウムグリーンに包まれた蕾は、赤子の拳を突き出し、今にもはじけとびそう~
陽にかざす花園は、火喰い鳥となり、光を咀嚼する音は、グラスファイバーが裂ける音なのか……。
何故、今、花なのか~
寡黙なヨガ行者のいる冬の森では、青い静脈の浮きでたクリスマスローズが、霜柱に姿を写し、豊かな土の幾何学模様を食べつくす……。
その青白い横顔は、聖者かゾンビか~!
あくまでも、冷ややかな行進は……氷の女王を思い出させてくれる。
何故、今、花なのか!
真赤な動脈の河が流れる椿は、前触れもなく(三月うさぎ)のように唐突に地に落ちる。
一つ、二っつ、三っつ、未だ西の空に月が在る朝から、東の空に月がもどる時も~
いくつも、いくつも、凍り付く大地に舞い降りる……
舞い降りつつ、何を語り合うのか…?
オシャベリ談義は、通りかかった犬達に邪魔されない限り続く……。
何故、今、花なのか?
獣道を走り続けてきた、生者としての植物達を今の(わたし)が追いかける……
2011年5月 公文淳子
公文淳子先生画歴
1968年 自由美術協会初出品 初入選
1989年 第25回記念全国公募神奈川県美術展 特別奨励賞受賞
東京都美術館 東京展大賞受賞
1990年 自由美術協会平和賞受賞