森 真 彫刻展
ご挨拶
[パンドラの箱(壺)の話]
私は近年、パンドラシリーズという彫刻をつくっています。この物語に登場するプロメテウス、エピメテウス兄弟は、どうも私と同じような仕事をする彫刻家ではなかったかと思うのです。
ギリシャ神話では、女が地上に現れる前に巨人族が暮らしていました。プロメテウス、エピメテウス兄弟は人間を造っていて、兄が監督し、弟が実際に仕事をしていました。プロメテウスはゼウスの目を盗んでアテナの助けで天に昇り、太陽の火の車から松明に火を移しとって持ち帰りました。ゼウスは天上の火を無礼にも盗んだという不快感があります。
一方、弟のエピメテウスは男しかいない世界で妻を望みました。その願いはゼウスに届き、パンドラはゼウスによって天上でつくられました。アプロディテが美しさを与え、アポロンが音楽の才を与え、ヘルメスがそそのかしの心を与えました。
そして、パンドラはエピメテウスに与えられたのです。ゼウスは結婚の贈り物としてすべての神々が祝福した小箱を持たせました。しかしパンドラはよく気を付けずにその小箱を空けてしまったために、その幸せは逃げ去ってしまいました。
エピメテウスの家の台所には瓶があって、たくさんの災いが閉じ込められていました。それは、体の苦しみ、リウマチなどの痛み、心の災い、ねたみ、うらみ、復讐心などでした。美しいパンドラは、ヘルメスが与えた好奇心というそそのかしの性格によってその蓋を空けてしまいます。ゼウスがパンドラに持たせた悪意の贈り物によって、人類に罪を償わせたのです。
私にはパンドラそのものが悪意の贈り物であり、美しく罪深い存在であるように思えます。
2015年11月
森 真
略歴
1956年生まれ、宝塚市出身
1984年、武蔵野美大 大学院 彫刻科卒
自由美術協会会員、日本美術家連盟会員
2016年5月、東京都美術館 ベストセレクション展 出品予定